人工知能と知財(AI関連特許)

1.日本経済新聞の記事について

2月1日付けの日経朝刊12面にAI関連の特許出願を分析した記事が出ていました。

 

vdata.nikkei.com

 

この記事によると、

  • 世界全体のAI関連の特許出願は2010年と比べて7割増加
  • 米国、中国へのAI関連の特許出願はここ5年間で増加している一方で、日本へのAI関連特許出願は減少

とのことです。

 

f:id:ipetc:20170205151852p:plain

 

ただ、このような調査は「AI関連特許」の定義によって結果が変わってくるので気をつけなければなりません(なお、調査を行ったアスタミューゼがどのような定義としたかは明らかにされておりません。)。

例えば、特許庁が行った「平成26年度特許出願技術動向調査:人工知能技術」では、人工知能技術の米国特許出願推移は以下のように減少傾向となっています。

 

f:id:ipetc:20170205151920p:plain

平成26年度特許出願技術動向調査:人工知能技術」より引用。

なお、本調査では「人工知能技術」の定義を「IPC: G06N」としている。


しかし、その一方で、NEDOの調査によると、人工知能技術の米国特許出願推移は以下のように増加傾向となっています。

f:id:ipetc:20170205151944p:plain

TSC Foresight (Vol.8) 2015年11月」より引用。


このように、定義の仕方によって傾向も変わってくるので、今回の日経に掲載されている調査結果だけを見て一概に結論を導き出すことは難しいですが、上記の特許出願技術動向調査結果とNEDOの調査結果にも共通しているのは、

AI関連技術に関して、

  • 米国への特許出願件数が突出している
  • 日本への特許出願は減少傾向にある

ということです。

 

2.知財部が検討すべきこと

上記のような日経記事が出ると経営層から「我が社もどんどんAI関連特許を出すべきではないか。」と言われるかもしれません。そう言われたときのために知財部としてどのような検討をしておくべきでしょうか。

 

(1)「人工知能技術」の多様性
一口に「人工知能技術」と言っても様々なものがあります。例えば、センサの構造、センサ間の通信方式のプロトコル、センサで収集したビッグデータの分析手法、等々です。
一般的に、アルゴリズムについては、特許を取っても侵害立証が難しいため、特許は取らずノウハウとして保有しておくのが得策と言われています。そのため、例えば、センサの構造については特許は取っておいた方がよいが、データ分析手法については特許を取らない方が得策もっとも、これも権利範囲の広さとの兼ね合いなので、広範囲・抽象度の高い権利が取れるのであれば権利取得はしておいた方がよいとは思います。、といった検討はしておいた方がよいでしょう。この時、もちろん自社の事業戦略も踏まえる必要があります。

ちなみに、インターネットを色々と探していて、よくまとまっている資料がありました。これをベースに検討されるのがよいかもしれません。

www.slideshare.net

 

(2)各国特許庁の審査動向の把握
AI関連特許出願に限った話では無いですが、ソフトウェア関連出願に関しては、米国では、最高裁判決(Alice 2014)を受けて権利を取得しにくくなっています。また、筆者の印象では、近年、欧州特許庁からも発明の成立性要件違反の拒絶理由を受けることが多くなってきた感があります。こうした審査動向を踏まえて、どのような請求項+明細書の書きぶりとすべきかの分析、あるいはそもそも出願するか否かの検討はしておいた方がよいでしょう。