オープン・イノベーションとは何か
本書の著者は、マッキンゼー出身で、ナインシグマ(技術仲介業、技術コンサルティング業)の創業者の一人である。
オープン・イノベーションの教科書---社外の技術でビジネスをつくる実践ステップ
- 作者: 星野達也
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2015/02/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「オープン・イノベーション」については、「自前主義からの脱却」、「水平分業」といった漠然とした理解はあったが、今までであっても企業は大学と連携したり、他社とアライアンスを組んだりしていたわけで、それと何が違うのかがよく理解できていなかったので本書を手に取った。結論から言えば良著であった。この手の本は記載が堅苦しく、理解がしにくいことが多いのだが、本書は非常に読みやすく、内容も充実していた。
日本で使われる「オープン・イノベーション」という言葉は複数の意味で用いられていて、それを表したのが以下の図である。私の周りでも「自由参加のコンソーシアム型」がオープン・イノベーションの例として挙げられることが多いが、本書の定義によればこれはオープン・イノベーションではない。コンソーシアム型は参加企業の利害調整が難しく、うまくいかないことが多いからだ。
※本書P40より引用し、若干編集を加えた。
では、オープン・イノベーションとは何か。本書では、オープン・イノベーションを以下のように定義している。世界的にもこの定義が共通認識のようである。
「メーカーが、自社のみでは解決できない研究開発上の課題に対して、既存のネットワークを超えて最適な解決策を探し出し、それを自社の技術として取り込むことによって、課題を解決する」
冒頭で述べたような大学との連携は、大体の場合、研究課題が生じたときに、昔から付き合いのある大学に相談するといったことを意味しているケースが多く、ある意味、企業のリソースとして織り込み済みだ。上記の定義に照らすと、「既存のネットワークを超えて最適な解決策を探し出し」ていないので、オープン・イノベーションと言えない。
オープン・イノベーションとは、そうではなく、世界のどこかにある最適な解決策を探し出し、取り込むことである。そうでなければイノベーションは発生しない。
そうすると、求める最適な技術をどう探し出すかがポイントとなる。本書では様々な企業の事例が紹介されているが、おおまかには、以下のとおりである。
- 大企業、中小企業、ベンチャー、大学、公的研究機関との間で広くネットワークを構築して、技術探索しやすい環境を整備する。ネットワークの構築や技術探索の手法については、オープンラボを設立したり(東レ)、複数の大学と包括的な年間契約を締結して個別のNDAを不要としたりする(デンソー)など、各社の工夫がある。
- 構築したネットワークを駆使しても技術が探索できない場合は、自社HPに掲載して公募をかけたり、技術仲介業者に依頼する。
オープン・イノベーションはうまくいけば、開発スピードが上がるし、製品の品質も高まる。しかし、こうした取り組みは研究者から反発を受けることも多い。「技術を外から求める」=「自分たちの研究を否定された」と受け止められることもあるし、「うまくいくかどうかも分からないことに自分たちを巻き込まないでくれ」と思われることもあるかもしれない。いくらオープン・イノベーションを組織の方針として決定したとしても、現場の理解・モチベーションが得られなければ頓挫する。
本書ではトップからのメッセージが重要だと指摘している。私も痛感しているが、得てして間接部門の立場は弱く、相手にされないこともままあるので、トップから繰り返しメッセージを発信してもらうことは社内調整をするにあたって本当に重要だ。
とはいえ、最近では、オープン・イノベーションの機運はだいぶ高まっているし、現に多くの企業が動き始めており*1、社内調整はだいぶしやすい雰囲気にはなっていると思う。
それに伴い、今後このような技術仲介業がますます活発になっていくのではないだろうか。それにしても、ナインシグマは2006年設立と、かなり早くにオープン・イノベーションに目をつけていたことには驚かされる。
*1:例えば、週刊東洋経済2017年2月18日号によれば、大企業によるCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の設立は今、ラッシュを迎えている。