ニコニコ超会議2017に行ってみた
ニコニコ超会議2017に行ってきました。とにかくたくさんのコンテンツがありましたが、個人的に面白かったのは、HADOですね。
これは、ヘッドマウントディスプレイとアームセンサーをつけてプレイする対戦ゲーム(スポーツ?)で、ディスプレイを通じて見た世界の中で、手からエネルギー弾やバリヤを繰り出し、他のプレイヤーと対戦するというものです。実際に体を動かすので本当に自分がエネルギー弾を撃っているような感覚になります。私のようなドラゴンボール世代にはたまらないのではないでしょうか(私もご多分に漏れず、ドラゴンボールを見てかめはめ波を打つために修行したクチです。)。
ハウステンボスには常設されているようですが、普通にスポーツジムなんかに置かれて気軽にプレイできるようになるとよいですね。
※オープンイノベーション・プラットフォームのeiiconのサイトより引用。
技術的には、おそらく背後の壁に描かれている特徴的な図柄がARマーカーになっていて、ARでエネルギー弾などを表示させているのでしょう。動き回るユーザーの位置認識をどのように行っているのか気になるところです。
知財部員としては特許を取っているかどうかが気になります。HADOは株式会社meleapという2014年1月設立のベンチャー企業が手がけていて、特許の公開公報をJ-PlatPatで出願人検索してみましたが発見できませんでした。インタビュー記事によると、開発着手が起業の7ヶ月後(2014年8月?)、開発期間に1年間を要したとあるので、もし開発終了後に特許出願していたとすれば、出願公開はそろそろということになりますね。
いずれにせよ、今後が楽しみな企業です。
他にも、VR蓮舫(総理大臣適性はAでした)や超歌舞伎など回りましたが、1日だけの参加だと時間がとても足りませんね。
ニコニコ超会議は初めての参加でした。ステージで歌っている人あり、コスプレしている人あり、芸人のトークショーあり、土俵ありと、なかなか混沌としていましたが、強烈なエネルギーをひしひしと感じました。
普段、事務的作業が中心のサラリーマンにはなかなか刺激が強かったですが、1年に一度はこうした刺激を受けた方がよいのかな、と思いました。
オープン・イノベーションとは何か
本書の著者は、マッキンゼー出身で、ナインシグマ(技術仲介業、技術コンサルティング業)の創業者の一人である。
オープン・イノベーションの教科書---社外の技術でビジネスをつくる実践ステップ
- 作者: 星野達也
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2015/02/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「オープン・イノベーション」については、「自前主義からの脱却」、「水平分業」といった漠然とした理解はあったが、今までであっても企業は大学と連携したり、他社とアライアンスを組んだりしていたわけで、それと何が違うのかがよく理解できていなかったので本書を手に取った。結論から言えば良著であった。この手の本は記載が堅苦しく、理解がしにくいことが多いのだが、本書は非常に読みやすく、内容も充実していた。
日本で使われる「オープン・イノベーション」という言葉は複数の意味で用いられていて、それを表したのが以下の図である。私の周りでも「自由参加のコンソーシアム型」がオープン・イノベーションの例として挙げられることが多いが、本書の定義によればこれはオープン・イノベーションではない。コンソーシアム型は参加企業の利害調整が難しく、うまくいかないことが多いからだ。
※本書P40より引用し、若干編集を加えた。
では、オープン・イノベーションとは何か。本書では、オープン・イノベーションを以下のように定義している。世界的にもこの定義が共通認識のようである。
「メーカーが、自社のみでは解決できない研究開発上の課題に対して、既存のネットワークを超えて最適な解決策を探し出し、それを自社の技術として取り込むことによって、課題を解決する」
冒頭で述べたような大学との連携は、大体の場合、研究課題が生じたときに、昔から付き合いのある大学に相談するといったことを意味しているケースが多く、ある意味、企業のリソースとして織り込み済みだ。上記の定義に照らすと、「既存のネットワークを超えて最適な解決策を探し出し」ていないので、オープン・イノベーションと言えない。
オープン・イノベーションとは、そうではなく、世界のどこかにある最適な解決策を探し出し、取り込むことである。そうでなければイノベーションは発生しない。
そうすると、求める最適な技術をどう探し出すかがポイントとなる。本書では様々な企業の事例が紹介されているが、おおまかには、以下のとおりである。
- 大企業、中小企業、ベンチャー、大学、公的研究機関との間で広くネットワークを構築して、技術探索しやすい環境を整備する。ネットワークの構築や技術探索の手法については、オープンラボを設立したり(東レ)、複数の大学と包括的な年間契約を締結して個別のNDAを不要としたりする(デンソー)など、各社の工夫がある。
- 構築したネットワークを駆使しても技術が探索できない場合は、自社HPに掲載して公募をかけたり、技術仲介業者に依頼する。
オープン・イノベーションはうまくいけば、開発スピードが上がるし、製品の品質も高まる。しかし、こうした取り組みは研究者から反発を受けることも多い。「技術を外から求める」=「自分たちの研究を否定された」と受け止められることもあるし、「うまくいくかどうかも分からないことに自分たちを巻き込まないでくれ」と思われることもあるかもしれない。いくらオープン・イノベーションを組織の方針として決定したとしても、現場の理解・モチベーションが得られなければ頓挫する。
本書ではトップからのメッセージが重要だと指摘している。私も痛感しているが、得てして間接部門の立場は弱く、相手にされないこともままあるので、トップから繰り返しメッセージを発信してもらうことは社内調整をするにあたって本当に重要だ。
とはいえ、最近では、オープン・イノベーションの機運はだいぶ高まっているし、現に多くの企業が動き始めており*1、社内調整はだいぶしやすい雰囲気にはなっていると思う。
それに伴い、今後このような技術仲介業がますます活発になっていくのではないだろうか。それにしても、ナインシグマは2006年設立と、かなり早くにオープン・イノベーションに目をつけていたことには驚かされる。
*1:例えば、週刊東洋経済2017年2月18日号によれば、大企業によるCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の設立は今、ラッシュを迎えている。
ディズニーとオープン・イノベーション
最近、地上波で立て続けにディズニー映画をやっていたので見てみました。
やはり、ディズニー映画はよいですね。
映像、音楽はもちろん素晴らしいですが、ストーリーも意外と奥が深くて、単なるファンタジーを超えています。
それはおそらく、グリム童話などの過去の名作をベースにしているからでしょう。
こういった童話は、表面上のストーリーの裏側に伝えたいメッセージ(教訓)があるので、それが深みを持たせているのではないでしょうか。
ネットを探してみるとディズニー映画の分析が色々と見つかるのもそのためなのだと思います。
ディズニー映画のすごいところは、映画を作るにあたってストーリーを自前でゼロから作るのではなく、過去の名作を利用したところだと思います。それでいて、ディズニーの世界観を完全に演出できている。
ある意味、理想的なオープン・イノベーションと言えるのではないでしょうか。
http://www.disney.co.jp/fc/anayuki.html
http://www.disney.co.jp/studio/animation/1090.html
産学連携のコーディネーター
産学連携の重要性は何年も前から指摘されていて、色々と取り組みもされてきたが、それも下火になっていたように思う。しかしここ最近はオープンイノベーションの必要性が色々なところで叫ばれるのに伴い、再び産学連携が注目を集めるようになってきた。
そこで産学連携について勉強しようと思い、Amazonで見つけたこの本を読んだ。
産学連携は重要性が指摘されているわりに書籍があまりないので、こういった本は貴重ですね。
産学連携は、要するに大学にあるシーズと企業側のニーズをマッチングさせ、製品化させるのが目的なのだが、これが難しい。まずマッチングすること自体が難しいし、マッチングできたとしてもうまく製品化まで持って行くのが難しい。
大学は企業にとって魅力的な制度を用意し(この本では阪大の「共同研究講座・共同研究部門」が紹介されている。)、企業では最近では以前より多くの予算を大学との連携のために用意していると聞く。
このような仕組み作りはもちろん大事なのだが、一番大事なのは、月並みだが“人”である。
大学側の人材に目を向けてみよう。多くの大学では、産学連携をサポートをするスタッフを雇用している(「コーディネーター」と呼ばれたりする。)。コーディネーターのバックグラウンドとしては、企業での研究開発業務がメインキャリアで、年齢層が高めな方が多いように思う。
コーディネーターの仕事の一つに、マッチング戦略(大学が保有するシーズを洗い出し、どのシーズをどの企業に売りこむかの戦略)の策定がある。このとき、コーディネーターに求められる能力として、当然、戦略策定能力があり、これはもちろん大事なのだが、フットワークの軽さやコミュニケーション能力といった営業能力も同じくらい大事だったりする。
しかし、研究開発をメインとされていた方は営業があまり得意ではないように思うし、年齢とともにフットワークも重くなってくる。(もちろん、そうでない方もいらっしゃいます。)
その結果、マッチング候補となる企業の目星はつけられるのだが、なかなか企業へのアプローチができなかったり、アフターフォローがおろそかになったりすることがある。また、大学の研究者との人間関係の構築がうまくいかないケースも散見される。こういった地道な営業活動とマッチング戦略の策定は両輪で、せっかく戦略策定能力があるのにもったいないと思うケースがある。
そこで、公募の仕方を工夫して、従来のコーディネーターとは別に、若めの営業経験者を雇い、営業を担当してもらってはどうか。ただ、マッチング候補となる企業の目星をつけるのは苦手だと思うので、そこは従来のコーディネーターとセットで行動させる。役割分担である。個人的にはよいアイデアだと思うのだが。
人工知能と知財(AI関連特許2)
先日、米国へのAI関連特許出願が突出していると書きました。
それもそのはず、人工知能関連の研究開発投資額が全く違います。
総合科学技術・イノベーション会議 評価専門調査会(第117回)資料2-3-1の4より引用。
政府投資額は、日本:100億円、米国:300億円、
民間投資額は、日本:3047億円、米国:55900億円。
民間投資額はケタが違いますね。
日立、富士通、NECの研究開発費を合計しても、米国企業1社にも及びません。
「人工知能」と一口に言っても、様々な産業に応用できます。
米国に比べれば限られた研究開発費しかないわけですから、人工知能技術の応用先産業分野の選択と集中、すなわち、なるべく少ない投資額で大きな波及効果がある産業分野を選択し、リソースを集中させることが大事だと思います。
では、どのような産業分野を選択すればよいか。現在、人工知能技術戦略会議では「人工知能の研究開発目標と産業化のロードマップ」を検討していて、今年度中に策定とのことなので期待したいと思います。
知財についても、コストは最小限にしたいところです。特許の出願・維持費用はバカにならないので、「AI関連特許はとにかく出す」のではなく、まず特許を出そうと思っている発明が事業計画に沿ったものなのかどうかを検討し、その上で、本当に特許が適切な手段なのか(特許化よりもノウハウ化の方が得策なのではないか)を検討するなど、出願の厳選が必要だと考えています。
人工知能と知財(AI関連特許)
1.日本経済新聞の記事について
2月1日付けの日経朝刊12面にAI関連の特許出願を分析した記事が出ていました。
この記事によると、
- 世界全体のAI関連の特許出願は2010年と比べて7割増加
- 米国、中国へのAI関連の特許出願はここ5年間で増加している一方で、日本へのAI関連特許出願は減少
とのことです。
ただ、このような調査は「AI関連特許」の定義によって結果が変わってくるので気をつけなければなりません(なお、調査を行ったアスタミューゼがどのような定義としたかは明らかにされておりません。)。
例えば、特許庁が行った「平成26年度特許出願技術動向調査:人工知能技術」では、人工知能技術の米国特許出願推移は以下のように減少傾向となっています。
「平成26年度特許出願技術動向調査:人工知能技術」より引用。
なお、本調査では「人工知能技術」の定義を「IPC: G06N」としている。
しかし、その一方で、NEDOの調査によると、人工知能技術の米国特許出願推移は以下のように増加傾向となっています。
「TSC Foresight (Vol.8) 2015年11月」より引用。
このように、定義の仕方によって傾向も変わってくるので、今回の日経に掲載されている調査結果だけを見て一概に結論を導き出すことは難しいですが、上記の特許出願技術動向調査結果とNEDOの調査結果にも共通しているのは、
AI関連技術に関して、
- 米国への特許出願件数が突出している
- 日本への特許出願は減少傾向にある
ということです。
2.知財部が検討すべきこと
上記のような日経記事が出ると経営層から「我が社もどんどんAI関連特許を出すべきではないか。」と言われるかもしれません。そう言われたときのために知財部としてどのような検討をしておくべきでしょうか。
(1)「人工知能技術」の多様性
一口に「人工知能技術」と言っても様々なものがあります。例えば、センサの構造、センサ間の通信方式のプロトコル、センサで収集したビッグデータの分析手法、等々です。
一般的に、アルゴリズムについては、特許を取っても侵害立証が難しいため、特許は取らずノウハウとして保有しておくのが得策と言われています。そのため、例えば、センサの構造については特許は取っておいた方がよいが、データ分析手法については特許を取らない方が得策(もっとも、これも権利範囲の広さとの兼ね合いなので、広範囲・抽象度の高い権利が取れるのであれば権利取得はしておいた方がよいとは思います。)、といった検討はしておいた方がよいでしょう。この時、もちろん自社の事業戦略も踏まえる必要があります。
ちなみに、インターネットを色々と探していて、よくまとまっている資料がありました。これをベースに検討されるのがよいかもしれません。
(2)各国特許庁の審査動向の把握
AI関連特許出願に限った話では無いですが、ソフトウェア関連出願に関しては、米国では、最高裁判決(Alice 2014)を受けて権利を取得しにくくなっています。また、筆者の印象では、近年、欧州特許庁からも発明の成立性要件違反の拒絶理由を受けることが多くなってきた感があります。こうした審査動向を踏まえて、どのような請求項+明細書の書きぶりとすべきかの分析、あるいはそもそも出願するか否かの検討はしておいた方がよいでしょう。
人工知能と知財(知財政策)
1.人工知能関連の審議会一覧
人工知能関連については政府でも様々な審議会が設置され、検討が進められています。
新たな情報財検討委員会(第4回)参考資料2より引用
かなり多くの審議会があって配付資料を読むだけでも大変なのですが、見ていった結果、これらのうちで知財に関連するものは、以下の3つのようです。
2.人工知能と知財について審議会で検討されていること
検討されている項目は多岐にわたるのですが、私はざっくり以下の3つに分けられると思いました。
(1)「データ」の保護
IoT技術などの進展により、収集した「データ」そのものが価値を持つようになってきたわけですが、現行知財制度でどのように保護されるのか必ずしも明らかではありません。そこで、「データ」に関する知財制度上の保護のあり方について検討するというものです。(詳細は3.①~④参照。)
知財本部新情報財委員会@霞が関。データ利活用の促進策。
— 中村伊知哉 (@ichiyanakamura) 2017年2月3日
産総研・関口さんが、大型コンピュータをブン回してπを100億ケタ以上計算してるが、そのデータは保護されるべきか否か、と問題提起。
むつかしいわぁ
新たな情報財検討委員会の委員長を務められている中村さんのツイートを見るだけでもいかに難しいテーマかが分かります。
(2)人工知能による創造物の保護
少し前に、人工知能によって創作された小説が星新一賞の一次審査を通過したことが話題になりましたが、このようにして創作されたものをどのように保護すべきなのか、という話です。(詳細は3.⑩参照。)
(3)その他
サーバーと端末とが国を跨がって存在するような場合に、日本の特許権で権利行使できるか(⑥)ですとか、パテントトロール対策(⑦)など以前からあった論点です。(詳細は3.⑤~⑨、⑪参照。)
3.(補足)審議会資料における検討項目の記載
① データに関しては、現行知財制度において「知的財産」として各種の知的財産権等で保護されるものと それ以外のものに分類されると考えられるが、本検討委員会では、産業競争力強化の観点から、利活用促進が期待されているものの、現行知財制度上の保護の範囲が必ずしも明確でないものを中心に検討することとする。
新たな情報財検討委員会(第4回)資料3より引用
② 委員や産業界から、保護することが望ましいデータとご提案をいただいた事例には、営業秘密としての保護が必ずしも明確ではなく、事業者が法的保護の予見可能性を高く持ちながら事業活動に取り組むことが難しくなっている場合がある。当該データにつき、その保護の在り方についての検討を行う。
営業秘密の保護・活用に関する小委員会(第7回)資料6より引用
第四次産業革命を視野に入れた知財システムの在り方に関する検討会
<データの利活用>
③ データベースや関連技術に係る保護制度の検討
データベース、暗号化等により保護された情報、人工知能・画像解析技術等につき、適切な保護について議論し、現行の著作権法や不正競争防止法等における保護状況を踏まえた上で、必要に応じて、データベースの違法コピーの禁止等の措置の導入を含めた新たな法制度の在り方について検討する。
④ 企業間におけるデータに係る契約形態の検討
企業間におけるデータの利活用、契約に係る調査研究を通じてそれらの実態を把握し、その結果を踏まえ、データ利活用を促進するための契約形態等の在り方について検討する。
<産業財産権システム>
⑤ 標準必須特許問題の解決
情報通信技術の標準規格を利用する製品を製造するために回避できない特許権について、権利者と利用者のバランスをどのように調整するべきか。
⑥ 国境を跨いだ侵害行為に対する適切な保護
サーバーと端末とが国を跨がって存在するような場合に、我が国で設定された特許権を行使することができるか。行使できるのは、どのような場合か。
⑦ 特許権行使専業企業等への対応
ITの普及に伴い特に米国において問題となっている特許権行使専業企業(Patent Assertion Entities)(※)の、我が国における実態把握とその対応。
※自らは製造販売を行わず、ライセンス料や高額な和解金を得ることを目的とした権利行使をビジネスとする者。「パテントトロール」とも称される。
⑧ ビジネス関連発明を活用した国際競争力の強化
我が国におけるビジネス関連発明の権利化の予見性の高さを利用して、ソフトウェアやビジネス関連の分野で、日本企業が特許ポートフォリオを構築できるのではないか。
⑨ データ構造の保護
データ構造に対する特許審査における判断の手法を示す必要があるのではないか。
⑩ AIによる創作物の保護
AIの活用により、創作に対する人間の関与が小さくなった場合に、発明の保護や発明者をどのように考えればよいか。
⑪ 中小企業の事業展開支援
日本の中小企業やベンチャー企業が国内外でビジネスを行ううえで必要となる知財の取得を、いかに効果的に支援していくか。
※上記丸数字は筆者が付与。